TIBHARからニューラバーが続々と登場しています。松平健太選手が開発に加わったハイブリッドMKが話題となっていますが、その前に登場し、あっという間に初期ロットが完売となったエボリューションシリーズの最新作、EL-DとFX-Dが気になるところですね。
今回は、EL-D・FX-Dの両ラバーを比較検証するとともに、TIBHARの主力商品となるエボリューションシリーズでは、一体どれを選べばいいのかについて、インプレッションと解説をしていきます。
「D」の力を使いやすく?EL-D・FX-Dとはどんなラバーか
2022年10月に発売したエボリューションシリーズの最新作、エボリューションEL-DとエボリューションFX-D。予約殺到、発売後は即完売で一時は生産が追いつかないほど人気のラバーとなりました。
MX-D、MX-Sと筆者の好きな感覚だったため、エボリューションの最新作とあらば、早速使わなくてはと、当時急ぎ予約に動いたのを覚えています。
では、メーカー公表のデータから確認していきましょう。
・エボリューションEL-D
- 種別:回転系テンション OFF+(裏ソフト)
- 厚さ:1.9mm、2.1mm
- スポンジ硬度:46
- スピード124 コントロール82 スピン122(TIBHAR社内値)
・エボリューションFX-D
- 種別:回転系テンション OFF(裏ソフト)
- 厚さ1.9mm、2.1mm
- スポンジ硬度:44
- スピード121 コントロール84 スピン122(TIBHAR社内値)
メーカー小売り希望価格は7,480円(税込)です。値段はエボリューションMX-Dと同じになっています。
メーカーとしては、MX-Dのシートはそのままに、柔らかいスポンジを搭載して使いやすさを与えたシリーズとして売り出しています。こうした特性は、実際の測定値にどう出るのか、確認していきましょう。
全体硬度は逆転?重さと硬さをチェック
見た目
エボリューションシリーズ全体の特徴である、曇りのかかったシートが搭載されています。表面を触った感じは、MX-Dと同じシートなんだなという感じ。シート自体の張りが強く、硬さも感じられます。
スポンジは、MX-Dのかなり引き締まった気泡の少ないスポンジではなく、気泡の目立つ柔らかめのスポンジです。
EL-DとFX-Dのスポンジを比べると、EL-Dの方が赤が明るく、FX-Dの方が少し暗いスポンジです。
マクロ撮影すると、EL-Dの方が気泡が多く、また大きいことが分かります。(写真の左がEL-D、右がFX-Dのスポンジ)
スポンジ表面のザラザラ感はEL-Dの方が強く感じます。過去にEL-Sを使っていましたが、そのスポンジともまた違うような。色味の系統は似ているのですが、EL-SのスポンジよりもEL-Dのスポンジの方が、さらに気泡が多くザラザラ感が多く見えました。
FX-Dも、FX-SやFX-Pとは違うスポンジが搭載されている感じです。柔らかさとしては近いのですが、FX-Dのスポンジの方が、モチっとしていて弾力があります。
重量
今回はEL-D、FX-Dともに厚さ1.9mmのモノを使用します。貼り付けたラケットはヤサカのシナジー。同じラケットに片面ずつEL-DとFX-Dを貼り付けた形です。
カット前のラバー重量は、EL-Dが70.4g、FX-Dが71.2gです。重さ逆では?と思いますが、実測値ですので、そのままお伝えします。0.8g程度の差だと、個体差でしょう。ただ、思ったほどFX-Dが軽くないということには驚きました。
カット後の重量はEL-Dが48.8g、FX-Dが57.6gと、カット前よりも差が大きくなるという結果に。それぞれ同程度の接着剤にしているので、差は実際のラバーの差に近いと思います。カット自体もカッターでギリギリまで攻めているので、カット時の大きさも変わりません。
それで8.8gもFX-Dが重くなるとは予想していませんでした。柔らかいラバーほど軽くなるというのが一般的な流れですが、EL-DとFX-Dの関係性だと、この通説は通用しないのかも。
ちなみに過去にもこういう逆転現象がTIBHARのラバーでは起こっています。MX-DとMX-Sを比較した際も、スポンジ硬度が柔らかいはずのMX-Sの方が全体硬度が硬く重くなるという結果に。同一シートで様々なスポンジを組み合わせるTIBHARあるあるなのかもしれません。
ラバー全体硬度
EL-Dが47HCなのに対してFX-Dが48HCとなりました。柔らかさを売りにするFX-Dが、EL-Dよりもラバー全体としては硬いということになります。
ちなみに、MX-Dは50HC、MX-Sは51HC、EL-Sは49HCという実測値での結果です。
より扱いやすいのはFX-D!EL-DとMX-Dの違いは、ほぼ無し?
今回は、EL-DとFX-Dをそれぞれシチュエーション別で比較していきます。また、上位モデルとなるMX-Dとの違いも見ていきましょう。
・対上回転の軽打
それぞれMX-Dと比べて弾み(飛距離)は抑えられている感じを受けます。弱いボールに対しても、しっかりと受け止めて離すのはFX-D。EL-Dは軽く打っていると、少し食い込み感が足りないかなという感じ。打った感じの硬さは、EL-Dがかなり硬く感じます。
・対上回転の強打
ここで弾み(飛距離)が出るのがEL-D。飛び感はほぼMX-Dと変わらない印象を受けます。若干だけ、ラバーからの飛び出しは抑えられているものの、打った感じはMX-Dのようなじゃじゃ馬感が強くありました。
MX-Dではミート系が気持ちよく入ったのですが、EL-Dだとスポンジがボールを持ってしまうせいか、インパクト時にボールが上にあがってしまい、直線的な弾道で飛ばすのが難しいです。加えて、インパクトを強くしていくと、MX-Dよりも飛距離が大きく出る感じがあり、個人的には使いにくい印象。前陣で使用するよりも、中陣から盛り返すのに役立ちそうな弾道です。
ミートの感じが良かったのがFX-D。そこそこに引っかかるのですが、弾いて打つとスポンジとシートのマッチングがよく、球離れが早いです。そのため、カチンカチンと面を出して打つミート打ちが楽。ボールも直線的で、スマッシュの弾道はMX-Dに近くなりました。
・対下回転の強打
回転に対して敏感なのはEL-D。MX-Dもそうですが、回転がかかる分、回転を受ける力も大きい。そのため、下回転の持ち上げに関しては、インパクトとスイングの早さが必要となります。ここに関しては、MX-DもEL-Dも扱いやすさは似た感じ。唯一、ループ系の技術はEL-Dの方がやりやすく感じました。
ドライブの回転が出るのに、回転の影響を受けにくいのがFX-D。下回転打ちはシリーズの中で最もやりやすい。フォアでもバックでも、インパクトがしっかりとでなくてもボールが持ち上がり、しっかりと回転がかかっているため、台にも収まりやすい。飛距離の短さと回転量のバランスが取れていて、いいですね。
・台上
勢いのないボールに回転を与える(チキータ、切ったツッツキ)などは、EL-Dの方がGOOD。FX-Dだと、切り始めた時にボールがポワンと上がってしまいます。サーブでも回転がかけやすかったのはEL-D。これはMX-Dよりも感覚がよく、サーブレシーブだけならEL-Dを選びます。
・ブロック
どちらもシートが硬く、球離れは相応によく感じるので、ブロックの不安は無し。スポンジが柔らかい(とされている)FX-Dでも、強いドライブに回転負けすることなく、打ち返せるのは魅力的ですね。
MX-Dの発売当時、評価されたのがシートの良さ。この点をEL-DとFX-Dは引き継いでいるため、ラバーとしての底地が非常に高いところにあります。
このシートの良さを、一般ユーザー層で体感するならFX-Dで十分。私もですが、ドライブのインパクトを強く出せない層になると、MX-DとEL-Dの違いが明瞭に分からないと思います。全国大会出場レベル以上では、その差が出ると思いますが、地方大会で負けてしまうレベルになると、FX-Dまで柔らかくした方が、Dの良さを感じられるのではないでしょうか。
結局エボリューションシリーズは、何を基準に選ぶべきか
回転のS、スピードのP、融合したDという三種類のラバーの中に、MX・EL・FXという3種の硬度が組み合わせられるエボリューションシリーズ。選ぶべき基準は「好きな硬さ」と「飛距離」にあるのではないかと。
それぞれで打ちやすい硬度があると思います。まずはそこに合わせて、スポンジ硬度を選んでみては。その中で、自分のプレースタイルに「飛距離が必要なのか否か」を考えます。
前陣でプレーする飛距離の必要ないプレーヤーには、柔らかい方からFX-P、EL-S、FX-Dあたりがおススメ。これらは飛びすぎず使いやすいですし、そこそこの初速が出やすいラバーです。
対して、中陣から粘るタイプや盛り返すタイプは、ある程度の飛距離が必要となります。自身のインパクトがそれ程強くなければ、MX-SかEL-D、しっかりとインパクトが出せるならMX-Dという選択肢になるでしょう。
シートとの組み合わせによって、スポンジ硬度がほとんど参考にならず、ラバー全体としての硬度がスポンジ硬度以上に硬く感じるものと、それほど硬く感じないものが混ざっています。
個人的な格付けですが、私のボールタッチ(インパクト)になると
硬すぎて使い切れないレベル:MX-D MX-P50 MX-P
硬さは十分、でも飛距離が出すぎ:MX-S EL-D
硬さOK、飛距離も短いしGOOD:FX-D EL-S
硬さOKでもシートが弱く感じる:EL-P
柔らかすぎてポヨンポヨン:FX-P FX-S
という感じです。個人的な感想ですので参考までに。
さらに下にはクァンタムシリーズが待っていますし、FX-PとかFX-S使うなら、クァンタムXプロでよくない?っていう感じです。
また、EL-DやMX-S使うなら、ハイブリッドMKもいいよねっていう印象も受けました。
個性的という意味で、エボリューションシリーズから選ぶなら、MX-D、MX-S、FX-Dの3種。エボシリーズ選びは、この3枚からスタートしてはいかがでしょう。
種類が増え、それぞれの差が小さくなった印象も受けるエボリューションシリーズ。玄人向けの微調整ができるラバーとしては、数少ないラバーシリーズでもあり、その存在は貴重です。
とりあえずエボリューションシリーズのどこかには、お気に入りの1枚が隠れているはず。しっくりくるラバーを探している方は、一度エボリューションシリーズを使ってみてください。
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コメント
コメント失礼します。
非常に興味深い記事でした!
以前、MX-DとMX-Sの比較の記事も出されていたと思いますが、それを踏まえて
EL-DとMX-Sを比較するとどのようになりますでしょうか?
やはり回転のMX-SとスピードのEL-Dといったキャラクターになるのでしょうか?
教えていただけますと幸いです!
それぞれの回転量に関しては、選手の力量によって変化すると思います。TIBHARプレーヤーのわったさんくらい、速度のあるスイングで、薄くボールを取れる人なら、回転の絶対量はMX-Sが上でしょう。
ただ、一般的なこすりながら当てていくという場合には、両者変わらずという感じを受けます。
しっかりと打てるなら、MX-S、それ以外ならEL-Dという選択肢になりそうです。
MX-Sの場合、シートが敏感なので、相手の回転の影響もEL-Dよりは受けやすくなります。技術と力によって、相手の回転を上書きできるような状態であればMX-Sの方が、ラバーの上限値は高いですね。