卓球のラケットの寿命って、すごく難しい概念です。ラバーであれば、引っ掛かりが無くなってきたり、粒が切れてしまったりと寿命はわかりやすいですが、ラケットは、いつ、どこで交換時期が来るのでしょうか。我が家のオールドラケットたちを紹介しながら、卓球ラケットの寿命について考えていきます。
木材のラケット、その寿命は?
卓球のラケットといえば木材です。一部にカーボン素材などの特殊素材を使うものがありますが、ラケット全体に対する構成割合は低く、大部分が木材で作られています。一口に木材と言っても、様々な種類があり、シナ、リンバ、ローズウッド、ヒノキ、バルサなど種類は様々です。
どの材質が強い、弱いという指標はありますが、卓球ラケットの場合、合板となっていることが多く、一つの素材での合板から、合板の中で木材の種類を変えるものもあります。
バルサやシナは、ヒノキなどに比べると耐久性は劣るとされていますが、これは湿度や温度の変化に対してどれだけ安定的に、木材としての能力を変化させずにいられるかという指標です。この材質が何か、ということで卓球のラケットとしての寿命が長いか短いかという話は、ちょっとしにくいですね。
ちなみにバタフライの「よくある質問」には、このような記載があります。
https://www.butterfly.co.jp/support/detail/001358.html
「ラケットの弾みは時間が経つと落ちてきます。そのためプロ選手はラケットを年に何回も調整し、ベストの状態の新しい用具を使おうとします。一般の選手でも1年くらいで弾みが変わってきますが、メンテナンスをしっかりして大事に使えばさらに長い間使用することも可能です。気に入ったラケットは大切に使いましょう。」
いつが替え時という明記はされていませんでした。
この表現から考えるに、ラケットの寿命とは
1、ラケットの弾みが落ちてきて、自分の求めている性能が発揮できなくなった時
2、ブレード表面がはがれてしまい、ラバーを貼った際に、打球面が平らな状態を保てなくなった時
3、台にぶつけるなどして、割れてしまった場合(破損)
4、湿気を吸って曲がってしまったり、内部が腐食した場合
などが考えられます。
この状態になるのが、一概にどのくらいの期間ということは明記しずらいものがあり、ラケットの寿命というのは、プレーヤーごとに異なる、さらに求めている性能により異なるということでしょう。
木材は長く使いたい?弾むと飛ぶはちょっと違う
世の中にある木工品には、何十年も何百年もの時を経て、味が出て高価になるというものがたくさんあります。代表的なものは楽器でしょう。ヴァイオリンやギターなど、木材を中心に作られているものは、長い時間をかけて熟成されて、良い音になるともいわれます。
ヴァイオリンの名器、ストラディバリは1600年から1700年に製造されたものが、数億円で取引され、ギターでも、マーチン社のD-45というアコースティックギターは、1970年代に製造されたモデルが100万円を超える金額で取引されていたりもします。
この他にも、家具や調度品など、木材で作られているものは、長く愛用され、古ければ古いほど味が出て、良いものになるという側面を持っていますね。
ちなみに、ヴァイオリンやギターに使われている木材は、「スプルース」と呼ばれるものです。このスプルースは、伐採されてから約300年経過したときが、最も硬くしまった状態になるということです。切り出して直ぐの状態よりも、長い年月を経過したほうが、楽器としての音の良さが際立っていくということでしょう。
それでは、ラケットではどうでしょうか。
長く使っていけばいくほど、ラケット自体のしなりが少なくなっていくのを感じます。これは、ラケットに使われている木材が、製造段階よりもさらに乾燥されて、木が硬くなっていくからでしょう。これによって、弾みが少なくなるという感覚になるのです。
木材が柔軟な状態、つまり衝撃に対して変化するような状態の時には、小さな力でもラケットがしなってくるために、ボールは遠くへ飛んでいきます。これが、どんどんと硬くなることによって、大きな力をかけないとしなりが発生しない状態になり、ボールを飛ばしにくくなってくるのです。
ラケットが弾まなくなるというのは、木材の中に含有されている水分がどんどんと無くなっていき、硬くしまった状態になるために発生する現象です。同一の力でラケットを操作した場合には、しなりの大きいラケットの方が、ボールの飛距離がでます。硬いラケット=弾む、柔らかいラケット=弾まないということではなく、球離れが早いか遅いかの違いです。最も遠くにボールを飛ばすためには、ラケットをしならせて、ボールに当てるという行為が最善の方法になるので、弾む=飛ぶという図式が成り立たないことをご理解ください。
そのため、木が若い状態で使用し、大きなしなりを求める選手では、木材の水分が少なくなればなるほどに、一定の力を加えた時のボールの飛びが悪くなるため、数か月という短いサイクルでラケットを交換し、最良のしなりを得られるようにしているのでしょう。
長く使うと品質や性能は安定してくる
ラケットの性能が「しなり」や「弾み」という要素で考えられた時に、その性能が落ち込む様子は反比例のグラフのイメージで下がっていきます。新品状態から、数か月から数年という短いスパンで、大きく性能数値は下がっていきますが、3年から5年を過ぎると、その性能の下げ幅は小さくなり、品質や性能が安定した状態になっていきます。したがって、保存状態が一定のものであれば、7年経過と10年以上が経ったものを比べていくと、大きな差は感じられなくなってきます。
我が家のオールドラケットの2本、20年戦士と30年戦士がいますが、10年前に打った状態と、現在打った状態では、弾みや打感に大きな違いは感じられません。
20年前に新品を購入したバタフライ「プリモラッツ」です。
黒蝶のバタフライロゴが年代を感じます。さすがにロゴマークは腐食が進んでいますね。
ブレード面ははがれもなく、滑らかで綺麗な状態です。まだまだ現役で使える状態のラケットですね。
柔らかい打球感と、適度な弾みということで、当時は人気のラケットでした。入門用から中級者まで幅広いユーザーが使っていましたね。現在市販されている、一般的な5枚合板ラケットと比べると、20年戦士のプリモラッツは、打感が硬めです。ブレードは、購入当初から比べると非常に高い音がして、木材が締まっているのを感じます。こちらは、筆者が中学校1年生の時にメインラケットとして使用しており、その後は高校を卒業するまで、サブラケットとしてラバーを貼られ、高校を卒業してから現在までの約10年間はラバーをはがした状態で、風通しのいい冷暗所に保管されていました。
もう一本がこちらです。
現在もスペアラケットとして使用している、スティガ「クリッパーウッドWRB」になります。
こちらは、中学校2年生の時に知人から譲り受け、その当時で5年から6年ほど使われていた中古品でした。
当時、スティガラケットはヤサカが輸入して販売しており、グリップエンドにはYASAKAのエンブレムが付いています。この後、ユニバー社が輸入代理店となり、ユニバーと書かれている時期もあります。
こちらは、中学2年生から高校3年生までメインラケットとして使用し、その後10年ほどは、ラバーを外して眠っていました。今から7年前に再度筆者が卓球を始めた時にも使っていたものです。
非常にブレード面が剥がれやすいスティガラケットですが、こちらもブレードは綺麗な状態で使用できています。
クリッパーウッドというと、めちゃくちゃ弾む攻撃ラケットというイメージがあり、現在販売されている新品を打ちこむと「こんなにしなって弾むのか」と驚きます。この30年もののラケットは、非常に打感が硬く、弾みは小さく感じられます。
元々、中古の状態で譲り受けたものなので、その当時からバリバリ弾むラケットではありませんでした。そこから考えても、現在の弾みはほとんど変わらず、打感もほぼそのままです。
グリップ形状、ブレードの大きさは最も好みのラケットで、現在使っているタイニーダンサー01も、このクリッパーウッドのブレードの大きさを再現するために、ブレードカットしています。
クリッパーウッドWRBで感じるのが、長い間の性能維持状態です。新品ラケットと比べると、大きく打感としなりは変わってしまっているのでしょうが、6年たった状態、10年たった状態、30年たった状態と比べていっても、さほどの劣化を感じません。この打感を気に入ってしまえば、逆に新品ラケットに交換することは憚られます。
メーカーが考える最高の状態とユーザーの最高は違うことも
卓球ラケットに関していえることは、メーカーの最高=ユーザーの最高が必ずしも一致しないということです。
メーカーが考えるラケットの最高は、間違いなく新品の状態であり、その性能をユーザーに使ってほしいために、日夜研究開発をしています。しかしこれは、全てのユーザーにとっての最良ではないということです。
木材の良いところでもあり、悪いところでもある「状態変化」をどう受け止めるのかが、使い手側の裁量になってきます。
例えば、「もう少し弾まなくなってほしいな」「もう少し打感を硬くしたいな」と思っているラケットは、使い続けていけば求める条件に当てはまるようになるかもしれません。木工品でよく言われる「育てる」という現象に似ています。
自分が求める性能に対して、どうラケットが違うのか。仮にそれが「弾みを抑制していきたい」というものであるのならば、ラケットを育てていけば、弾みは落ち、自分の求めた性能になるかもしれません。そしてその状態変化は短いスパンで急激に発生します。自分が求める性能がどこにあるのか、それが、どう今のラケットと違うのかを考え、ユーザーとしての最高を考えてみてはいかがでしょうか。
これをラケットの劣化と捉えるのか、それとも成長と捉えるのかは、求める性能と現状の差をしっかりと分析してこそです。
まとめ
卓球のラケットの寿命は先に上げた「劣化」(と捉えるかどうか)、「汚破損」を除けば、永遠なのかもしれません。天然の素材を使っているからこそ、新品が最もよく、年数が経つにつれてダメになるとは言えないものがあります。自分にとってのラケットの寿命とはどこにあるのかを、考えてみてはいかがでしょうか。
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