東京オリンピック男子シングルスで、張本智和選手を破ったスロベニアの星「ダルゴ・ヨルジッチ」選手、そして記憶に新しい2022年の全日本選手権、決勝の舞台に立った「松平健太」選手。どちらもTIBHAR(ティバー)の契約選手ですが、ヨルジッチ選手がフォア、松平選手がバックに使用しているのが、TIBHARのNEWラバー「ハイブリッドK3」です。
TIBHARの粘着テンションといえばハイブリッドK1Jというラバーがありましたが、K3はそこから大きく進化したラバーのようです。基本スペックから使用感まで、ガッチリインプレッションしていきます。
しっかりしているが重くない!粘着テンションに新たな革命を起こす
TIBHARラージボールプレーヤーの「わった」さんもフォアに使用するラバーです。わったさんはTIBHAR契約になる前は、粘着ラバーユーザーでした。しかし、ハイブリッドK1Jの独特な打球感が好きではなかったようで、ハイブリッドK3の登場までは、大ヒットラバーのエボリューションMX-Dをフォア面に使用しています。
そんな粘着ユーザー「わった」さんを、一瞬で虜にしたハイブリッドK3。一体どんなラバーなのでしょうか。まずは公式発表の基本スペックから確認していきましょう。
ハイブリッドK3(粘着性ハイテンション裏ソフト)
厚さ:MAX・2.0mm
カラー:レッド・ブラック
スピード:118 コントロール:100 スピン:130
スポンジ硬度:53度
ドイツ製
メーカー小売り希望価格8,470円(税込)
K1J(52.5度)、MX-D(51.5度)よりも若干硬度の高いスポンジを採用したK3。TIBHARラバーの中では、最も硬いスポンジを搭載した裏ソフトになります。価格もTIBHAR史上最高値を更新(これまではMX-Dの7,480円が最高値)しましたが、蝶々さんのところや、多角形ラケットを出すところでは、1万円に近い(さらにそれを超える)ラバーが、上級モデルとして発売されていることを見ると、まだ良心的な価格になっているかなと思います。(3割引で6,000円を切りますので)
ラバーパッケージは、三つ折りで、黒字に紫文字がなんだか不気味な雰囲気を持っていますね。開封すると、保護シートに守られたラバーが登場しました。さすが粘着ラバー。
トップシートは不透明系ですが、明るい赤ではなく、深い赤になっています。シート表面はテカテカで、粘着ラバーなんだなということは分かりますが、触ってもそこまでベタベタしません。言われてみれば若干粘着気味かなぁ程度。ボールはラバーの上で止まりますが、ボールを持ち上げるほどの粘着力はありません。
スポンジはクリーム色で、気泡はほとんど見えません。目が詰まった感じの硬そうなスポンジです。
厚さ2.0mmで、カット前のラバー総重量は69.8gでした。ラバー全体硬度(シートとスポンジを合わせた全体での硬さ)は52HCです。思ったよりは硬度が上がりませんでした。MX-Dが50.0HC、MX-Sが51.0HCなので、ほとんど変わらず。
ちなみに粘着テンションの他のラバーを見ると
パラディンブルースポンジ(SWORD):55HC
スピンアート(バタフライ廃盤):58HC
月ブルー(銀河):53HC
GEAR HYPER(三維):53HC
157×150mmのラケットに貼り付けた後のカット後重量は、47gです。50gを越えていたMX-DやMX-S(個体差はあります)よりも、軽いのは意外でした。参考程度にですが、これまでMX-Sを貼っていたSwing Ⅳ SにハイブリッドK3を貼り付けたところ、5g程度軽くなりました。MX-Sよりは、ハイブリッドK3が軽いということが分かる結果です。
粘着と聞くと重いラバーを想像しますが、ハイブリッドK3は、従来の粘着のイメージを変える、しっかりがっしりしているけど重量級ではないラバーとも言えるのではないでしょうか。
テンション?粘着?その中庸を上手くとらえたラバー
それでは、ハイブリッドK3の打感を紹介していきましょう。
今回は、2種類のラケットに貼り付けました。1つ目はいつもの通りヤサカのシナジー(11枚合板グラスファイバー)、もう1本は先ほど出てきた自分のメインラケットSwing Ⅳ S(5枚合板)です。材質や合板数の違いでも、違いが感じられたので、組み合わせるラケットとの関係性などにも触れながら、進めていきます。
フォアハンド(軽打・ミート・対上回転ドライブ)
スポンジ硬度は53度と硬いですが、軽打でもその硬さはあまり感じません。ゴリゴリの粘着ラバーというよりは、限りなくテンションに近い微微微粘着ラバーといった感じ。トップシートも硬すぎず厚すぎず、軽い力で引っ掛かりが起きてくれます。
この引っ掛かりが2種類あるのが、ハイブリッドK3の特徴で、軽打からミートに関しては、粘着質なトップシートがボールを落とさずに、必要最低限の回転を食らって、かつ必要最低限の回転を伝えて飛んでいく感じです。擦り気味に弾けば回転数は上がり、しっかりミートすると、ボールはナックル気味に飛んでいきます。落ちる気配はなくボールを保持する時間が比較的長いのが特徴。ただし、この保持は粘着質なトップシートから生まれているものだと感じました。
ラバー自体の引き攣れが起きるのは、強くインパクトした時です。対上回転でドライブをかけに行くと、ボールがしっかりとトップシートに食い込み、引っかかりかつ引き攣れを起こしてパワーを蓄え飛んでいきます。ラケットを被せても落ちることは殆どなく、擦り打ちでも弾き打ちでも、ドライブに関しては気持ちよく打てるでしょう。
粘着ラバーということで、硬さが気になるところでしたが、ラバーへの入力は弱い力でも起きてくれるので、粘着特有のしっかり振らないとカチカチでボールを掴めないという感じは受けませんでした。
テンションラバーよりは、腕力が必要なことは確かですが、フォアハンドであれば、相手の力を使って弾き打ちの多い女子選手でも、使えるラバーなのではないでしょうか。
バックハンド(軽打・ミート・対上回転ドライブ)
こちらも打感はフォアに近い感じで、シート打ちとスポンジまで変形した打ち方と、どちらでも対応できる感覚です。
軽打・ミート打ちでは、少し擦ってあげる方が安定します。テンションと大きく違うのは、手元を離れるまでの時間。ボールの初速が遅い分、自分の手元を速く離してしまうと、ボールがスリップしたようになり落ちるのが気になります。粘着ラバーだからと言われれば、それまでですが、手元の飛び出し方と、飛距離や飛球線が、ちょっとイメージとは合わない感じでした。
ドライブに関しては一級品ですね。回転量も乗るしスピードも十分。バックに関しては違和感がありつつも、慣れていけば気持ちよく使えそうな感じもありました。
ちなみに、MX-SとハイブリッドK3を比較です。
ミートでもドライブでも、強いインパクトを入れた時に、打感が大きく違います。MX-Sは、ボールの力を上手く吸収して、ボールを離す感じがあり、弾いたときにラバーからラケットの芯までの間に底付きするような感じはありません。ラバー自体でボールの威力を処理しています。
対して、ハイブリッドK3は、強くインパクトを入れると、シートが先に変形し、スポンジを経由してラケットの底まで力が入力される感じです。実際に底まで達しているわけではないでしょうが、そのままボールを受け止めると、入力された力が、少し死んでしまうような感覚になりました。
回転をかけよう、スピードを出そうとして、腕をしならせずに強く振ろうとすればするほど、この傾向は強く、粘着ラバーなので、なんでもかんでも楽に入るというものではありません。そこは覚悟したうえで、ボールを待ち、自分から殺したり、伸ばしたり、回転を消したりつけたりしましょう。
初速が遅いので、ボールが走っていないように自分からは見えますが、相手からすると、テンション使用時とボールのスピードは変わらないようです。
遅いブロック、早いブロック、回転を残したり消したり変化をさせるブロックはやりやすく、ミートのボールはナックル気味になり、チョリのループドライブは落ちる心配がなくしっかり回転がかかります。スピードの変化、回転の変化が出しやすいことから、MX-Sと比べて、技術の引き出しは増えそうです。
対下回転
回転に対する感度は、テンションよりも低く感じます。そのため、下回転に対しても回転負けすることなく、自然に持ち上がってくれる印象です。ベストはブチ当てながら擦っていくという粘着のドライブを打てればいいですが、単純にボールを引っかけるだけでも、持ち上がってくれるのが安心できるところではないでしょうか。
抜群にやりやすいという本格粘着ではありませんが、対下回転でもストレスなく、また強いインパクトが必要なく上がってくれるので、攻撃のきっかけづくりには非常に良いですね。
台上・サービス
ここは粘着ラバー特有の良さが光ります。ラバー自体がある程度回転を殺してくれるので、ストップやフリックなどがやりやすいですし、落ちる心配がないので、チキータなども積極的に狙えます。特に個人的には深く刺さるツッツキがやりやすかったです。
サービスは短く安定、回転もかけやすいです。跳ね上がりが少なく滑るような弾道なので、低いロングサーブも出しやすい。ただし、絶対的なスピードは求めないようにしましょう。
ラケットの材質で打感は変わる
一般的な粘着ラバーや粘着テンションと一番違うところは、圧倒的な「飛距離」です。ざっくりいうと飛ぶラバーなのですが、速いというよりは吹っ飛んでいくという感じ。特に台から出たボールを触る際には、良い飛び感を感じられます。
粘着は飛距離が出ないから、バックでは敬遠する。私もそうですが、ブロックなど当てる技術になった時に、途端に棒玉になってしまうのが悩みで、バック粘着をあきらめていましたが、ハイブリッドK3の飛び(飛距離)があれば、上手くやっていけそうだなと感じました。
飛距離が出るモノをコントロールしなければいけないので、相応の技術が必要になるラバーです。そこはご留意ください。
さらに、特殊素材系(今回はグラスファイバーでしたが)ラケットに貼ると、その飛距離はさらに増します。そしてスピードが乗り、制御がさらに難しくなるのは確実です。
正直、シナジーでは打球感が硬すぎるのと、意外なほど飛距離が伸びるので使いにくかったハイブリッドK3でしたが、5枚合板のSwing Ⅳ-Sで打つと、ボールの収まりが良く、ほどほどに飛距離も収まるので、MX-Sよりも使いやすさが感じられました。
普段特殊素材ラケットを使っていて、ハイブリッドK3を貼った時に、明らかなオーバーミスが増えたという場合には、ボールの持ちが長い木材ラケットに変えてみることで、ラバーの表情が変わっていきます。Swing Ⅳ-S自体は、かなりぶっ飛ぶ5枚合板です。飛距離もスピードも十分なラケットで、シナジーよりも飛距離やスピードが出るはずなのですが、ハイブリッドK3を貼った状態では、その感じ方が逆になりました。
個人的には、特殊素材と合わせるよりも、純木材(7枚合板や5枚合板、板厚は6mm前後)と合わせる方が、万人に使いやすい仕様になるかなという感想です。
おそらく、もっとしっかりとインパクトできる層(全日本出場者等)であれば、特殊素材との方が気持ちよく打てると思いますが、プレーヤーのボリュームゾーンである中位層が使うと考えると、インナー系のラケットも避けたほうが良いかもしれません。少し違和感が合ったら、ラバーの厚さよりも、ラケットの材質を変えることで、悩みが解消できるのではないかと思います。
総評
飛ぶ粘着テンションという触れ込みで登場したラバーはいくつもありますが、まさしくハイブリッドK3が、最もこの称号に相応しいラバーでしょう。粘着らしさを少し感じながら、テンションのような扱いやすさもあるため、テンションからの移行もスムーズです。
飛び感や飛球線の違和感は慣れるしかないなという感じですが、前で止めるもよし、下がってもしっかり回転をかけて盛り返すもよし、個人的には下がった時にはバックカットなので、それが低く深く伸びていくのも魅力でした。
ピッチが速く、回転の差でミスを誘う自分の戦い方としては、テンションよりもK3の方が気持ちいいですね。あとは耐久性や上のレベルとやった時にどうなるか。この辺りは、後日追記していきます。
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